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BUBUがお届けする連載企画 “ナレッジ” | Showcase.23 「ダッジ チャレンジャー SRT ヘルキャット × 渡辺陽一郎」

第23回目はモータージャーナリストの「渡辺陽一郎」さんにご登場いただきました。

BUBUがお届けする連載企画 “ナレッジ” | Showcase.23 「ダッジ チャレンジャー SRT ヘルキャット × 渡辺陽一郎」

文/プロスタッフ写真/内藤敬仁

不満を感じたら、アメリカ車を試すと良いだろう

最近の新型車の運転感覚は、日本車、輸入車、駆動方式などを問わず、ひとつの方向に集約されてきた。ハンドル操作に対する反応が正確で、小さな舵角から車両の向きが忠実に変わる。さまざまな走行状態で後輪の接地性が高く、危険を回避する時でも運転の難しい状態に陥りにくい。この高い安定性を確保した上で、峠道などでは、車両がカーブの内側へ正確に回り込むから運転しやすい。

この設定では、安全性と速さが両立され、足まわりが正確に作動するから乗り心地も上質になる。クルマが進化を重ねた結果、今はすべての乗用車が同じ方向を目指すようになった。

優れた商品は造られるが、個性は希薄で、面白さとか意外性もほとんど感じられない。今はクルマ好きにとって、少し退屈な時代かも知れない。

このような不満を感じたら、アメリカ車を試すと良いだろう。輸入車の圧倒的多数を占める欧州車に比べると、個性が際立っているからだ。

そこでBUBU光岡が輸入するダッジチャレンジャーSRTヘルキャットを試乗した。

車両イメージアメリカ車は輸入車の圧倒的多数を占める欧州車に比べると個性が際立っている。

ブラックキーとレッドキー

ダッジチャレンジャーはアメリカの代表的なスポーツカーで、現行モデルの外観は1970年に発売された初代モデルを連想させ、迫力が満点だ。
 
も注目されるのはエンジンだろう。今の欧州車や日本車では、絶滅間近ともいわれるV型8気筒で、SRTヘルキャットの排気量は6.2Lに達する。しかもスーパーチャージャーも装着している。

試乗に際してシャレが利いていると感じたは、1台のクルマに2つのキーが用意されることだ。ブラックのキーを携帯している時は最高出力が500馬力で、レッドを持つとスーパーチャージャーがフルに作動して707馬力を発揮する。最大トルクも650lb-ft(約90kg-m)と強力だ。2つのキーを携帯すると、レッドキーの707馬力を優先させる。トランスミッションは8速ATを組み合わせた。

車両イメージシャレが効いている「一台のクルマに二つのキー」

試乗する時のキーは、もちろんレッドを選んだ。発進すると、低回転域から強力なトルクが沸き上がる。Dレンジにシフトしてブレーキペダルから足を離しただけで、Lサイズのボディを力強く押し出す。ほぼアイドリング時の回転数なのに、動力性能は余裕タップリだ。

時速60km前後を上限に走る市街地では、1500回転も回せば十分な加速力が得られた。2000回転以上を回す必要はほとんどない。

車両イメージレッドキーをチョイスして試乗した。市街地では.500rpmも回せば十分な加速力。

ちなみに欧州車や日本車の一部に見られるダウンサイジングターボでは、アクセルペダルを軽く踏みながら走る1400回転以下で、駆動力の落ち込みを感じることが多い。SRTヘルキャットなら、この点も不満はない。排気量が6.2Lと大きく、スーパーチャージャーは排出ガスではなくエンジンの駆動力を使って過給器を駆動するから、パワーの立ち上がり方が自然吸気に近い。そのためにアイドリングに近い状態でも、余裕のある駆動力が得られた。

エンジンの性格が分かったところで、アクセルペダルを深く踏み込む。スーパーチャージャーが即座に効果を発揮して、蹴飛ばされるように、一気に速度を高めた。左右の風景の流れに目が追い付かないというか、相当に強い緊張を強いられる。この動力性能を過給器を装着しない自然吸気のノーマルエンジンで発生させるには、9Lクラスの排気量が必要だろう。

試乗を開始した時、速度計が時速200マイル(時速320km)まで目盛られているのに気付いた。最初はスポーツカーならではの演出かと思ったが、加速性能を試すと、とてもリアルに感じられる。

実際、SRTヘルキャットの最高速度は199マイルとされ、停車状態から時速60マイル(時速96km)までの加速タイムも3.6秒ときわめて短い。スーパーカーの速さを誇る。

当たり前のように使いこなすのは、ちょっとカッコイイ

動力性能がこれほど強力だと、ボディやサスペンションにも相応の性能が求められる。SRTヘルキャットは、このバランスも入念に図られていた。カーブを曲がっている最中にアクセルペダルのオン&オフ操作をしても、車両の挙動が大きく変わる心配はない。今の新型車で重視される後輪の接地性も確保され、高性能ゆえに節度のある運転は必要になるものの、足まわりがパワーに負けている印象はなかった。

3モード・アダプティブ・ダンピング機能も装着され、足まわりをデフォルト/スポーツ/トラックに切り換えられる。スポーツやトラックではショックアブソーバーの減衰力が高く設定され、Lサイズのボディが機敏に向きを変える。

デフォルトモードでは硬さが抑えられ、適度なスポーツ性と快適な乗り心地を両立していた。シートの座り心地も高性能スポーツモデルの割に快適だから、大柄なボディに慣れれば、日常的な移動にも使えるだろう。707馬力を普段着として、当たり前のように使いこなすのは、ちょっとカッコイイと思う。

フル加速を行った時には、ブレーキ性能も試した。ガッシリした操作感覚で、ストローク(ブレーキペダルの踏みしろ)も適度だから、踏力の調節がしやすい。名門のブレンボ製が備わり、前輪が6ピストンでローターは390mm、後輪は4ピストンで350mmとなる。

車両イメージブレーキは名門のブレンボ製が備わり、前輪が6ピストンでローターは390mm、後輪は4ピストンで350mmとなる

5つの魅力

画一化された優等生的な今日のクルマに満足できないマニアにとって、ダッジチャレンジャーSRTヘルキャットは、面白い選択肢だと思う。

その理由を整理すると、まず第一に個性的な外観が魅力だ。典型的なロングノーズ・ショートデッキで、初代チャレンジャーを想わせる。

クラシックモデルの外観をモチーフにしたボディスタイルは、欧州車にも見られるが、駆動方式が違ったりすると無理が生じてしまう。その点でダッジチャレンジャーは、今も昔もV型8気筒エンジンを搭載するFR(フロントエンジン・リヤドライブ)だ。クラシックモデルの現役時代を知るユーザーが見ても、自然に受け入れられる。

2つ目の理由は、圧倒的にパワフルなエンジンだ。先に述べたとおり、市街地を1500〜2000回転で走るだけでも、SRTヘルキャットの高性能を十分に実感できる。高速道路のETCゲートやインターチェンジでは、時速100kmまでの迫力ある加速を堪能できるだろう。

3つ目は安全性だ。動力性能に見合う走行安定性とブレーキ性能を備えるから、危険を回避する能力も高い。高速道路を時速100km前後で巡航中にアクシデントに遭遇して、急ブレーキを掛けながらハンドル操作で障害物を避けるシーンでも、大事に至らない可能性が高く残される。

4つ目は実用性だ。2ドアクーペでも後席が備わり、長距離移動でなければ大人4名の乗車も可能とする。手荷物も収納しやすい。トランクスペースには相応の深さと奥行があるから、セダンに近い感覚で使える。

そして5つ目は価格だ。試乗車は2016年式だが、走行距離は2480kmと少ない。車検が3年付いて、価格は798万円だ。欧州車のメルセデスベンツEクラスであれば、新車ではあるが、2Lガソリンターボエンジンを搭載したE250セダンのアバンギャルドスポーツ(最高出力は211馬力)が814万円だ。これよりも少し安い。

1馬力当たりの価格も注目される。最高出力が707馬力で価格は798万円だから、1馬力当たりの価格は1万1287円に収まる。日産スカイラインGT-Rピュアエディション(570馬力/1023万840円)が1馬力当たり1万7949円、レクサスRC・F(477馬力/982万4000円)が2万595円、ホンダシビックタイプR(320馬力/450万360円)が1万4064円だから、いかにダッジチャレンジャーSRTヘルキャットの「1馬力当たり価格」が安いか分かるだろう。

車両イメージ市街地を1500〜2000回転で走るだけでも、SRTヘルキャットの高性能を十分に実感できる

1990年頃までは、アメリカ車のスポーツモデルも、日本に数多く輸入されていた。この時代のアメリカ車の魅力には、迫力のある加速感を低価格で味わえることがあった。今回、ダッジチャレンジャーSRTヘルキャットを試乗したら、若かった頃の想い出がいろいろと蘇ってきた。同年配の皆さんも、運転すれば同じ感慨を抱かれると思う。

車両イメージ

【プロフィール】

渡辺 陽一郎

1961年生まれ。神奈川大学卒業。1985年に自動車雑誌を中心に扱うアポロ出版株式会社に入社。その後、同社で複数の自動車雑誌やアウトドア雑誌を手掛け、1989年に自動車購入ガイド誌「月刊くるま選び」の編集長に。1997年にはアポロ出版株式会社の取締役も兼任。2001年6月に40歳を迎え、同月に「カーライフジャーナリスト」の肩書でフリーランスに転向。 「読者の皆さまに怪我を負わせない、損をさせないこと」が最も重要なテーマと考え、クルマを使う人達の視点から、問題提起のある執筆を心がけている。

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