アメリカン・デザインは格好いい。フランク・ロイド・ライトの建築、イームズやハーマンミラーのチェア、バンカーズライト、ハミルトンの腕時計、フェンダーやギブソンのギター、ファイヤーキングのマグカップなどなど、挙げ始めればキリがない。これに異論のある人は少ないだろう。それなのに、なぜかクルマにだけは及び腰の人が多い。恐らくは、実体を伴わない大袈裟なイメージのせいだろう。
ここで断言しておくが、別にアメリカ車に乗るからといって葉巻を咥えてカウボーイハットを被る必要はないし、バックスピンターンが出来なくてもいいし、無理して宇宙人と戦う必要もない。アメリカ車でも特別なことはなく、このシボレー・カマロに代表される新世代のマッスルカーは、今や日本製のプレミアムセダンよりも短い全長で取り回し易く、小排気量ターボ・モデルもラインナップして燃費や税金も抑えられ、イマドキ他の国のモデルと比較して信頼性が劣るようでは製品として成り立たない。ただただ、隣人とあまり被ることのないアイコニックなアメリカン・デザインを、心ゆくまで楽しめばいい。
現行カマロのデザインは、1967年モデルとしてリリースされた初代のエクステリアをモチーフとしている。モチーフとしてはいるが、当然のことディテールの解釈は現代的で、最早そのシャープさは別次元。
そしてリバーサイドブルーメタリックの最新2019年モデルでは、アッパーグリルとロアグリルを分断するフロントバンパーがブラックアウトされ、レッドホットを纏う2018年モデルからさらに迫力が増されている。その顔付きは、バトルスター・ギャラクティカのサイロンっぽいといって通じるだろうか? ……古い方の。
カマロが実際以上に大きく見える要因は正にこのエクステリア・デザインにあり、サイドウィンドウ下端が描くベルトラインを高く引き上げ、相対的にルーフを低く見せることで塊感を増しスポーティさを強調しているためだ。
ドライバーズシートに腰を下せば、高いベルトラインと太いピラーによって、まるで戦車にでも乗り込んだかのような「守られている感」に包まれる。もちろん視覚的にだけではなく、これらによる高いボディ剛性は乗員を守り、確かなハンドリングを約束してくれる。そう、パワーはあるが曲げるのにちょっとしたコツを要するアメ車は、遠い過去のものなのだ。
そのパワー、今回試乗したLT RSには可変バルブタイミング機構とダイレクト・フューエルインジェクションを組み込んだ2L直4DOHCターボチャージド・ユニットが搭載され、202kW(275ps)@5500rpmの最高出力と400N・m(40.8kg・m)@3000-4000rpmの最大トルクを発揮する。
これに組み合わされるのは8スピードATとなり、その最大トルクの回転域が示す通り発進時から充分以上のトルクを発生させる。同クラスの日本車と比べれば軽快感では譲るものの、実際の重量は1.5t少々と意外なほど軽く、ダンピングが効き落ち着いた乗り心地やスタビリティの高いハンドリングは味付けであることが判る。常にワインディングロードで小鳥のように舞うのが目的ならばいざ知らず、街乗りがメインであれば、このライドコンフォートは歓迎すべき点だろう。
さらに、日本人の体型でもパフォーマンスに見合ったサイドサポートが得られるフロントシートも魅力的だ。実はアメリカでは左右で独立したシートはすべてバケットシートと呼ばれ、大柄なアメリカ人に合わせたそれは日本人には大き過ぎる場合も多かった。しかし現行カマロのシートは適度にタイトで、それでいて腰の疲れから多少ヒップポイントをずらして座っても違和感なく体にフィットする、アメリカ車伝統の美点をしっかりと受け継いでいる。
現行型のカマロでは、やはりこの2Lターボチャージド・ユニットを搭載したモデルが圧倒的な人気で、販売では8割を占めるという。そのため、開放感に溢れるコンバーチブル・モデルにも日本仕様ではこのユニットが選ばれている。
ちなみに現行のカマロはウィンド・コントロールが秀逸で、コンバーチブルでトップを降ろしていても風の巻き込みは比較的穏やかに抑えられ、クーペでサイドウィンドウを全開にして流していても髪を撫でる風が心地いい。ただし前述したようにカマロはベルトラインが高いので、往年のマッスルカーよろしくサイドウィンドウを全開にしたドアに肘を掛けてドライブしようとするのは、40代50代の方にはお勧めできない。……肩痛的な意味で。
その代わり往年のマッスルカーという意味では、正しくマッスルな333kW(453ps)の最高出力と617N・m(62.9kg・m)の最大トルクを持つ6.2LV8ユニットに10スピードATを組み合わせたSSがクーペに用意される。こちらは充分以上どころか脳ミソを置き去りにするかのような加速と痺れる音が本分、絶対的な速さでは往年のマッスルカーを遥かに凌駕する。
いずれにせよ、カマロは「デザインが格好いい」だけで選んでも心置きなく楽しめるモデル、腰を引かず一度試乗してみてはいかがだろうか。
本間薫(ほんま・かおる)
1968年東京生まれ。50歳。
腕時計からアクセサリーからフィッシングギア、アウトドアギア、アメリカン・カジュアルウェア、
クルマ、古民家に到るまでモノ系を得意とするフリーライター。
元ミシュランタイヤ・レースタイヤ・テクニシャンで、本人が3歳の頃から乗る父親が残した71年モデルの
マーキュリー・クーガーを自らの手で3年半掛けてオーバーホールし、普段の足としている。
Knowledge! ナレッジ!
BUBU MITSUOKAがお届けするスペシャルコンテンツです。
自動車に限らず、幅広い分野からジャーナリストや著名人をお招きして自動車を中心に様々な角度から
切り込んでいただく連載企画です。
今後も多数展開いたしますので、お楽しみに!毎月配信。