今回のナレッジに登場していただいたのは「スーパーアメリカンフェスティバル(以降アメフェス )」の事務局代表である増井淑博氏だ。
1992年の第一回開催以来、四半世紀以上もの長きにわたってアメフェスを開催してきた増井氏は、20世紀後半から今世紀にかけての日本のアメ車文化の生き字引とも言える存在。ドラッグレースとともにアメフェスの主要コンテンツとなっているカーショーの審査員でもある増井氏は、カーショーにエントリーされる車両の審査を通じ、その時々の流行を肌で感じてきた一人であり、アメリカ車&アメリカンカスタムに対する造詣の深さは日本でも屈指と言える。
そんな増井氏に、今回は「BUBU VINTAGE」で販売中の「1972年型GMC シエラ 2500 カスタムキャンパー(以降シエラ)」にお乗りいただいた。
なお、今回増井氏にお乗りいただいたシエラは、一見するとノーマル車に見えるが、実は車両全体にカスタムが施されている。オリジナルに近いグッドコンディションのヴィンテージカーがラインナップの中心となるBUBU VINTAGEの中では異色とも言える存在だ。そんな今回の試乗車について、アメリカンカスタムのエキスパートとも言える増井氏はどんな感想を持たれたのだろうか?
編集:昨年、史上初のお台場開催となったアメフェスに、BUBUはBCDを中心とするディーラーブースを出展させていただきました。今回はそんな縁もあってアメフェスの主催者である増井さんに、BUBU公式ホームページの月替わり試乗企画「ナレッジ」への登場をお願いしたわけですが、何はともあれ、先ずはシエラにお乗りいただいた率直な感想を忌憚なくお聞かせください。
増井:まず最初に車両を見て、簡単な説明を聞いてから思ったのは「よく出来てるなぁ」ということ。次に、クルマに乗ってエンジンをかけ、走り出して思ったのが「やっぱり新しいクルマは楽だなぁ」ということ。簡潔に言えばこの2点ですね。
編集:一つ目の「よく出来てる」の部分は後でまた詳しくお伺いするとして、先に二つ目の感想の方にツッコミを入れさせていただきます(笑)。「新しい」とおっしゃいましたが、今回お乗りいただいたシエラは1972年製。つまり47年前のモデルです。一般的な感覚で言えば、十分に「ヴィンテージ」とか「クラシック」にカテゴライズされる車両ですが?
増井:確かにそうですね。でも、僕の個人的な感覚だと戦後生産のモデルは「新しいクルマ」なんですよね。1970年前後のマッスルカーはもちろん、フィフティーズあたりでも「古い」という感覚は全くありません。なんせ普段足にしているのが1913年型のTバケット(シボレー ロードスター)ですから。
編集:今日はサンダーバードの最終型に乗っていらっしゃいましたが、あのクルマは愛車ではないんですか?
増井:あのレトロ・バーズ(2003年型フォード サンダーバード)は雨の日専用のセカンドカーです。Tバケットは雨が降る日は乗れないので。
編集:100年以上前の車両をベースにしたホットロッドがファーストカーで、2000年代のサンダーバードがセカンドカーですか?(笑)
増井:まぁ1913年型とは言っても、それはあくまで書類上の話で、車両が製作されたのは80年代ですけどね。エンジンも80年代のGMのスモールブロック400で、ミッションも3ATのターボ350なので、純粋なクラシックカーとは違います。ただ、そうは言っても、現代のクルマとは比べものにならないくらい「不便」な乗り物であるのは間違いないですよね。とはいえ、今乗ってるTバケットは割と普通に使ってますよ。同じホットロッドでも、以前乗っていたT型フォードなんかは、さすがに日常ユースは厳しかったですけどね(笑)。
編集:なるほど。四半世紀以上もの間、本格的なホットロッドを乗り継いで来た方からすれば、70年代のピックアップトラックを新しいと感じても不思議はないですね。とくに今回お乗りいただいたシエラは、アメリカのマニアが時間をかけて仕上げた車両で、機関系も絶好調ですから。
増井:私はピックアップトラックやバン、SUVについてはそれほど詳しい方ではないので細かい部分までは分かりませんが、今回乗せていただいたシエラは、けっこうカスタムされていますよね?
編集:はい。エンジンはリビルトされた350 V8で、エーデルブロック製キャブレター&ヘッダース、K&Nエアクリーナー、クロームエアフィルターなどでモディファイされています。足回りはヘビーデューティサスペンション&ホイール。ミッションはターボ・ハイドラ・マチック3AT。速さやパワーを重視したカスタムではありませんが、アメリカンV8らしいトルクフルなフィーリングを楽しめる仕様と言えます。
しっかり整備した上で、必要に応じて各部をモディファイするという、いわゆるレストモッド的な仕上げがされた車両ですが、一番の特徴は内外装の仕上げです。試乗前に簡単に説明した通り、錆びて穴が空いてしまったように見えるのは、全てカスタムペイント。つまりフェイクです。一見するとボロボロだけど、内容的にはバリもんという(笑)。対照的にインテリアは「4〜5年落ちの中古車かよ!」というくらい綺麗な状態。エアコンならぬクーラーも付いてますし、増井さんのTバケットとは違って、特に気合いを入れなくても、現代の日本で普通に足にできます(笑)。
増井:始めに言った「よく出来てる」というのは、まさにそのカスタムの部分です。とくにボディの仕上げ。
僕は最初に車両を見た時、正直「うわっ、なんだこれ。錆びてボロボロじゃん」と思いました。実は錆(に見える)部分も触って確認したんですが、その時は「おいおい、錆の上からクリアー吹いたの?」と思ったんですよ。でも、それが全てカスタムペイントによる演出だという。
わざとボロボロに見せるという意味では「ラット・スタイル」というカスタム手法がありますが、ラット系のバイクなんかは「ボロい」というより「汚い」と言った方がいいような車両が多い。でも、今回のシエラは、ピックアップトラックということもあって、風雪に耐えてきたワーキングカー的な趣がある。ベース車両の特性を活かしたカスタムというか、製作コンセプトがしっかりしている。そういう部分を「よく出来てる」と言ったわけです。
編集:ありがとうございます。このシエラはBUBUでカスタムしたわけではありませんが、仕入れを担当したスタッフは、車両の全体的な程度に加え、まさに増井さんがおっしゃった様な部分も評価して車両を仕入れたんだと思います。
それにしても、さすがに長年アメフェスで審査員をされているだけに、アメリカ車やアメリカンカスタムについては、専門誌の編集者やライターさん以上にお詳しいですね。
増井:詳しいと言っても、僕は知識としては大して詳しくはないですよ。
僕はアメフェスを開始して以降、「アメ車のイベントやってる人間がアメ車以外に乗ったらいかんだろう!」と思って、アメリカ車ばかり乗り継いできました。比較的短いスパンで乗り換える人間だし、同時に複数台所有することもあるので、27年間で軽く30台以上のアメ車に乗っています。それらの大半は自分自身でアメリカから個人輸入して登録してますし、整備なんかも自分で出来る範囲は自分でやっているので、アメ車については自然とそれなりに詳しくなっただけなんです。
アメフェスの審査員はやっていますが、年式が新しくなればなるほど知らないモデルも多くなるし、カスタムについてもエアサスとかガルウイングとか、現代的なカスタム手法については、細かくは分かりません。まあアメフェスについては、僕自身が弱い部分があっても、それぞれの分野に詳しい仲間が手伝ってくれているから問題はないんですが。
編集:アメフェスについてのお話が出ましたが、第一回から富士スピードウェイで開催していたアメフェスを、昨年はお台場で開催し、今年は千葉で開催予定だそうですが、せっかくですので、その辺の経緯や今後の予定を軽く教えてください。
増井:アメフェスはドラッグレースありきで始めたイベントなので、長く富士スピードウェイで開催していました。ただ、時代の流れや諸々の問題を考慮し、昨年は交通の便の良いお台場での開催となったわけです。お台場は場所的には最高だと思ったのですが、いかんせん昨年は暑過ぎた。当日の会場の気温は42度もありましたから。それからまた紆余曲折あって、最終的に今年は10月13日(日)に、千葉県のハーバーシティ蘇我というところの「フェスティバルウォーク蘇我」で開催することになりました。もちろん会場的にドラッグレースは出来ません。また、千葉開催というのは史上初。色々と不安もありますが、新会場ならではのアドバンテージもありますし、関係者一同、アメフェスを成功させるために頑張っていますので、BUBUさんもぜひ今年もご出店ください。
編集:検討させていただきます。ところで、増井さんは暫く前から愛車の買換えをご検討中と伺っていますが、今回のシエラはどうですか?
増井:僕は愛車は2ドアと決めています。実際、これまで人生で4ドアのクルマを買ったのキャデラック セビルの1度だけ。それ以外は全部2ドアです。また、街を走っている時に同じ車種と出会うのが嫌。つまり珍しいクルマが好きなわけです。そういう意味では今回のシエラは2ドアで日本では珍しいし、条件には合致してるんですが…。実は次に欲しい、乗りたいクルマは決まっていてずっと探してるんですよ。
僕は来年70歳になります。まだまだ締めのクルマには早いけど、これから所有できる愛車の台数は、若い人に比べれば多くはありません。ですから、これから先は自分が本当に好きで、本当に欲しいと思うクルマだけ購入するつもりなんです。そして、僕が好きなのはやっぱりホットロッドなんですよね。
編集:なるほど、分かりました。今回は取材にご協力いただきありがとうございました。アメフェス、応援していますので頑張ってください。
増井淑博 (ますい・よしひろ)
スーパーアメリカンフェスティバル事務局代表
1950年2月15日生まれ。音楽出版社コールドスエット代表。音楽プロデューサーとして『COOLS』『憂歌団』『銀星団』『MOON DOGS』『CHOCOLATE LIPS』『翔』などプロデュース。1992年に当時マネージメント&プロデュースをしていたアーティストを売るためのイベントとして『スーパーアメリカンフェスティバル』をスタート。他にも『スーパーアメリカンガレージ』というイベントも主催している。