第61回目はモータージャーナリストの「山田弘樹」さんにご登場いただきました。
文/プロスタッフ写真/内藤 敬仁
クルマ好きなら、誰もが一度は憧れるピックアップトラック。
とはいえフォードF150やトヨタ タンドラといったフルサイズは、日本の道路だと使い勝手があまりに厳しい。さらに現在の為替を考えても、1000万越えはちょっと手が出ない。
そんなときに「これならいいかも!」と思える物件が上陸したと聞いて、BUBU横浜のショールームを訪れてみた。
お目当てのクルマは、'22年式の「日産フロンティア CREW CAB PRO-4X」。ミドルサイズの国産逆輸入車だ。
フロンティアといえば、そのルーツは“ダットラ”の北米仕様車。現行モデルは2021年にフルモデルチェンジしたばかりの4代目で、その名前も先代のNP300フロンティアから、シンプルなフロンティアへと戻されたモデルである。
そして何よりそのフロントマスクが、乗用車ライクでちょっとへなちょこだったデザインから、ワイルドな「インターロックグリル」へと変わったのがなんともカッコいい。ちなみにこの変更はNV350キャラバンがキャラバンになったことでも見受けられた日産のイメージチェンジ戦略だが、骨太さや頼もしさを表現するデザインとしては、フロンティアが一番ハマっていると思う。
さてそんなフロンティアのスリーサイズはというと、全長5340×全幅1897×全高1852mm。北米には3551mmのロングホイルベースもあるが、試乗車はスタンダードな3200mmのクルーキャブ仕様だ。
実物を見た印象はというと、これが実に“ちょうどいい!”感じ。東京や横浜のような都市部だとコイツが入る平置きの駐車場を探すのに手間取るのは覚悟しなければならないが、フルサイズピックと比べてればやっぱりスマートだし、それでいてそこらへんのSUVには負けない迫力がきちんとある。
実際動かしたときの扱いやすさもなかなかのものだった。
今回は残念ながら試乗する機会には恵まれなかったのだが、撮影用にショールーム内を何度も切り返して、奇しくもその扱いやすさを確認することができたのだ。
エンジンスタートは、インパネのプッシュボタンを押すだけ。3.8リッターの排気量を持つ自然吸気のV6ユニット「VQ38DD」は、クランキングも短めに“プルン”と目覚める。
ところで国産のピックアップは、その外観はまだしも特にインパネのデザインが、本場モノと比べて迫力に欠けがち。ハッキリ言って国産乗用車と変わらない、ツマらないインテリアになりがちだ。
そしてこのフロンティアも、確かにハンドルはもろ日産の乗用車然としている。
しかしちょっとこれまでと違うのは、助手席のエアバッグ部分やセンターコンソールのブリッヂ、アームレストのトリミングなどはソフトパッドになっていて、そこに赤ステッチをあしらいながら全体の印象を若々しく見せているところだ。
またシートの表面も汚れに強そうなテキスタイルで、座面は小ぶりだが座り心地が心地良くスポーティ。
確かにオールドスクールなアメリカン・トラックの美学はないが、こうした演出がハードプラのダッシュボードをすら現代的ガジェット感にまで高めていて、ガチなアメ車フリークではない筆者にはかえってそれがイケてると感じた。ひとことでいうと日産フロンティアは、現代っ子なピックアップトラックだ。
さて肝心な取り回しだが、エンジンはつま先で僅かにアクセルを開けるだけで、唐突なトルクを出すこともなくこの巨体をゆっくりと確実に操作することができた。
高台から見下ろすような視界はすこぶる良好で、かつ試乗車にはサイドアンダーミラーの代わりにBUBU横浜が新たに装着した死角用のモニターがあったから、ストレスなく360度転回を決めることができた。いまどきの高解像度の360度モニターやソナーは正直欲しいところだが(オプションにはあるのだろうか?)、これでも十分実用的だ。
ステアリングは重すぎもせず軽すぎもせず、これまた良い感じ。それだけにオープンロードで元気に走らせてみたかったが、これまでの経験と今乗った感じでいうと、常用域では9速ATのギアリングともあいまって、その低中速トルクを生かしながらいたってフツーに走ってくれる感じだろう。
調べた限りではヒルスタートアシストやヒルディセントコントロールも標準装備のようだし、新開発の油圧キャブマウントはキャビンに伝わる振動の8割を低減させたという。ビルシュタインダンパーを装着しながらもそのバンプラバーにはウレタン製バンプラバーを採用したというから、かなり静かで良好な乗り心地が得られているのではないだろうか。
また筆者はZ33型フェアレディZを2台ほど乗り継いで自然吸気のVQユニットをよく知っているつもりだが、その上で予想すると3.8リッター化されたそのエンジン特性は、割とシャープに心地良く吹け上がるタイプだと想像した。実際お店の許しを得てちょっとアクセルをブリップしてみたが、その音色は適度な音量かつ適度な迫力があり、V8には敵わないけれど直列4気筒ターボよりは断然いいと感じた。ようするにそのボディサイズ同様、日本にはちょうどよいワイルドさがある。310PSというパワーも、まずまずだ。
ちなみにリアシートにも座ってみたが、室内空間はダブルキャブとしてはこちらもまずまずな広さだった。
シートバックこそ荷室との関係で直立気味だが、ひざ周りは身長171cmの筆者だと少し余裕がある。振り向けばピックアップトラックならではのスライド式リアウインドーが新鮮で、これを開ければフレッシュエアが取り込める。
後部座席でくつろぐようなラグジュアリーさはないけれど、いざというときにゲストを乗せるくらいは十分できる。荷物を放り込むスペースとして考えれば、十二分に広い。
荷台寸法は縦1496×横1560×深さ493mmと、イメージとは違って横長なバスタブルック。頑丈そうなバックパネルに座って足を投げ出しながら外でランチでも食べたら、さぞかし気持ちよさそうだ。
荷台には荷物用マットも惹かれていたし、折りたたみ式トノカバーは折りたたみパネルごとにロックが着いているから、使い勝手が良くて耐候性も高そうだ。
あー! 走らせられないのが本当にもどかしい。
思わず衝動買いしそうになるほど気に入ってしまったそのプライスは、支払い総額が846.8万円。決して安くはないけれど、現在の為替を考えればかなりユーザーフレンドリーな価格設定だ。
ちなみにBUBU横浜ではその価格を少しでも現実的なものとするために、敢えて新車ではなく低走行の新古車を選んでインポートしたのだという。そして「BCD60プラン」を使えば、一年保証が付いた上で3年後の買い取り価格を60%まで保証してくれる(走行距離3年3万kmなど詳細はホームページを)。
ピックアップトラックは、アメリカだとスポーツカーと同等に扱われるクルマだ。確かにSUVやミニバンより後部座席は断然狭いし、最大の特徴であるトラックベッドだって、実際これをフルに使う機会なんてそうそうない。意外とつぶしが利かない度合いでも、肩を並べた存在である。
それでもこれがスポーツカーなのだと考えれば、色んなコトがちょっとお得に思えてくる。だってガチなスポーツカーだったら、荷物すら満足に積めないじゃないか。リアシートだって、十分実用的だ。多少汚れたって、むしろそれがカッコいい。スピードなんて出さなくてもこのV6エンジンは気持ち良く吹け上がるし、雪道や砂利道こそ最大の得意分野だ。
そして何より、流行のSUVよりも断然カッコいい。スポーツカーより、ワイルドだ。残価設定で賢く乗るのもいいけれど、もし気に入ったなら一生掛かって乗り潰すのも、悪くない選択だと私は思う。
山田弘樹(やまだこうき)
自動車雑誌「Tipo」の副編集長を経てフリーランスに。編集部在籍時に「VW GTi CUP」でレースを経験し、その後は各種ワンメイクレースやスーパー耐久などに参戦。この経験を活かし、現在はモータージャーナリスト/インストラクターとして活動中。
モットーは「プロのクルマ好き」。愛車は86年式のスプリンタートレノと、95年式の911カレラ(Type993)。
日本カー・オブ・ザ・イヤー選考委員。
A.J.A.J.(日本自動車ジャーナリスト協会)会員。