ミツオカ・バディが売れている。ホームページを覗いてもらえばわかるが、今申し込みをしても、来年9月以降の生産分だそうだ。もちろん大手カーメーカーと違い、手づくりとも言える一日一台程度の生産キャパシティだが、それにしても人気の高さには驚く。今回は限定車ではないのでいつかは手に入るだろうが、バディを手中におさめるには辛抱強さは必要かもしれない。
このクルマが人気の背景にはアウトドアブームがあると思われる。三密を避けられることでキャンプ場やグランピングは混んでいるからだ。12月に入って寒さで落ち着いてはいるが、春になりまた暖かくなれば多くの人が集まるであろう。デザインや機能面でキャンプグッズも進化していることから単なるブームで終わりそうもなさそうだ。
となると、そこまで行くクルマが肝心となってくる。そこで、シティ派SUVよりもアウトドア派SUVに注目が集まっている。バディのベース車両となったトヨタRAV4が売れているのもそんな理由。開発責任者とは何度も話しているが、シティ派SUVが主流の中で、あえてアウトドア方向へ逆振りさせた計画だったそうだ。そしてそれが見事時流と合致したと分析している。
さて、バディである。前述したようにこのクルマはRAV4をベースとする。ルーフやサイドのボディラインからはそれは容易に読み取れるだろう。がしかし、不思議なくらいオリジナリティに溢れているのも確か。フロントマスクもリアエンドもかなり自然な感じでボディ全体に溶け込んでいる。はじめからすべて描かれたようなスタイリングだ。
なぜそんなことができるのかは……、正直わからない。ただ言えるのはミツオカがアメリカ車のことを熟知していること。単純に「アメ車ってこんな感じ」というのではなく、精緻に計算されている。そこにはBUBUディーラーなどで長くアメリカ車と付き合ってきた経験が活かされているのではないだろうか。
では具体的に細部を見てみよう。まずはフロントマスクだが、これは80年代のシボレーK5ブレイザーを思い起こさせる。縦横の格子型グリルと角形ヘッドライトがそれで、まさに80年代のトレンドとなる。シボレーもそうだし、フォードFシリーズもそうだ。それに個人的に所有していたジープ・ワゴニアも同様の角形ヘッドライトを装着していた。齢五十路以上のアメリカ車好きであれば当時憧れたデザインだ。
そしてそれを逆スラントに取り付けているのが素晴らしい。そうすることで、少し70年代の雰囲気も醸し出している。つまり、よりクラシックさが強調されるわけだ。で、それがリアエンドのデザインに繋がっている。こちらはまんま70年代風な仕上がり。縦型テールライトとMITSUOKAのロゴが入るメタルプレートがそう思わせる。角度のついたリアピラーとのマッチングは最高だ。例えるならミッドセンチュリーのステーションワゴンを思い出させる。この縦型テールライトはキャデラックATSあたりから調達したのではないだろうか。
うまいのはテールゲートのパネルをメタルにしているところ。ここをウッドパネルにしてしまえば容易にアメリカンな雰囲気は出せるが、ベース車両が持つ現代的なフォルムとの違和感は拭えないだろう。そこをメタルにすることでオールドスクールなデザインの中に新しさを提案している気がする。この塩梅は絶妙だ。
こうした前後のリデザインをうまい具合にサポートしているのがメッキ加工されたバンパー。ここが現代的な樹脂パーツそのままであればこれだけの世界観は演出できない。それじゃメッキ製バンパーを用意したのかといえばそうではない。あえて樹脂製バンパーをメッキ加工して装着した。この判断もまたインテリジェンスを感じる。いい感じだ。
この他ではフロントマスクを作り替えたことで、ボンネットとフロントフェンダーまで手を入れている。ボンネットのセンター部分が膨らんだ形状とフェンダーのエアダクト風アクセサリーがそれを物語っている。ここも強いこだわりだ。こうした造形もアメリカ車を熟知していることの表れと思われる。
といったエクステリアデザインのバディは全部で7つのグレードがある。ガソリンエンジン車とハイブリッド車、2WDと4WD、トリム違いといった仕様の組み合わせだ。それによりホイールが異なるのも重要ポイント。白または黒のカラードテッチン+メッキホイールキャップとアルミホイールがある。ここで大切にしたいのはボディカラーとのマッチングだ。これを間違えるとせっかくのバディの世界観が台無しになってしまう。なので、十分な検討が必要だが、これがかなり難しい。意外にもボディカラーが多いのが悩みのタネだ。80`ミントもいいがビーチベージュやトップガングレーもいい。かと言ってブラックマイカとアルミホイールの組み合わせも捨て難い。
なんてのが、バディの魅力。ミツオカの底力を見せつけられたような気がする。アメリカ車のエキスパートは侮れない!
九島辰也 (クシマ タツヤ) / モータージャーナリスト兼コラムニスト
1964年生まれ。東京・自由が丘出身。外資系広告会社から転身、自動車雑誌業界へ。「Car EX(世界文化社 刊)」副編集長、「アメリカンSUV/ヨーロピアンSUV&WAGON(エイ出版社 刊)」編集長などを経験しフリーランスへ。その後メンズ誌「LEON(主婦と生活社 刊)」副編集長、フリーペーパー「go! gol.(ゴーゴル;パーゴルフ刊)」編集長、アリタリア航空機内誌日本語版「PASSIONE(パッショーネ)」編集長、メンズ誌MADURO(マデュロ)発行人・編集長などを経験する。2021年7月よりロングボード専門誌「NALU(ナルー)」編集長に就任。
また、傍らモータージャーナリスト活動を中心に、ファッション、旅、ゴルフ、葉巻、ボートといった分野のコラムなどを執筆。クリエイティブプロデューサーとしても様々な商品にも関わっている。
愛車はポルシェ911カレラ(2005年型)、RAV4アドベンチャーUS逆輸入車(2019年型)
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