第57回はモータージャーナリストの「石井昌道」さんにご登場頂きました。
文/プロスタッフ写真/内藤 敬仁
フォード・ジャパン時代に日本で人気が高かったエクスプローラー。ボディサイズは、アメリカでは普通かもしれないが日本では立派で存在感が高く、3列シートというのもポイントが高かった。いかにもファミリーユースの生活臭が漂うミニバンではなく、豊かなライフスタイルを感じさせたからだ。
2011年から日本導入された5代目は、それまでのトラックベースのラダーフレーム構造から乗用車ベースのモノコック構造へと切り替わり、オンロードでの走行性能や快適性が大幅に向上。ルックスが都会的になったことも人気に拍車をかけた。このクラスではスタンダードなV6 3.5Lエンジンに加えて、時流にのったダウンサイジング・コンセプトの2.0L直噴ターボを用意したのも特徴(後に2.3Lへ換装)。
思い出話をさせてもらえば、2016年に日本導入予定となっていたV6 3.5LのECOブーストのインプレッション・ムービーを2015年末に某サーキットで撮影したものの、年が明けたら突如としてフォードの日本市場撤退が決まり、そのムービーがお蔵入りしたのが切なくも懐かしい。ハイパワーでハンドリングも良く、豪快なスポーティSUVだっただけに、日本の路上を走ることがなかったのが残念だった。
あの段階で撮影があったということは、フォード・ジャパン内部の人たちも、撤退についてまったく知らなかったわけで、本当に突然のことだったのだな、という実感もあった。歴史を紐解けば、日本の自動車産業の夜明けはいまから約100年前の1925年に、フォードが横浜市守屋町で、世界で初めて自動車の大量生産=民主化を果たしたT型フォードのノックダウン生産を始めたことにある。いまでは、その跡地にフォードと関係が深かったマツダのR&Dセンターがあり、自分も仕事でちょくちょく訪れている。日本へいち早く進出して自動車産業をもたらしたフォードが、日本から撤退してしまったことには一抹の寂しさがある。
そんなちょっとした思い出があるエクスプローラーだが、最新モデルが日本上陸していると聞いてBUBU横浜のショールームに見に行ってきた。
エクスプローラーは2019年にフルモデルチェンジを受けて6代目となっている。4代目から5代目ではラダーフレーム構造からモノコック構造へと大変革されたが、5代目から6代目でもエンジン横置きFWDベースからエンジン縦置きRWDベースへと、これまた大きくかわった。
FWDベースは、フロントアクスルの位置が一定以上は前出しできないため、フロントオーバーハングが長めでホイールベースはあまり長くはとれないが、RWDベースになると事情がかわる。フロントアクスルの前出し、およびロングホイールベース化で室内長が長くなって機能的に有利であることに加え、伸びやかでスタイリッシュなエクステリアになるのが特徴だ。フロントフェンダーの後端からフロントドアまでの距離が少し長くなっていて、これが視覚的な伸びやかさにも繋がっている。
6代目エクスプローラーも、従来以上に優雅。ルーフラインは後方にいくにつれてなだらかに傾斜していて、Cピラー付近を寝かせて見せる工夫が、クーペライクでスタイリッシュに映るポイントだろう。
今回見せてもらったのは2022年から登場しているTimberlineと呼ばれるモデル。「Timberline」は高緯度によって草木が生育できるぎりぎりの森林限界という意味で、アウトドアグッズなどでも象徴的なネーミングに用いられ、エクスプローラーではオフロード性能を高めたモデルに与えられる称号だ。
グリルやホイールがブラックアウトされ、荒野を疾走する雰囲気となっているだけではなく、リアアクスルにトルセンLSDを採用してトラクション性能向上を図り、アンダーボディにスチールのスキッドプレートを装着するなど機能的にも本格派。ただならぬオーラがある。
室内をチェックすると、欧州プレミアム・ブランドのような上質感はないものの、機能的な道具として気軽に付き合えそうな雰囲気で、大らかなアメリカを感じさせる。もちろん広々感は最上級で、クルマでお出かけする機会が多いファミリーにとって最高の相棒になってくれそうだ。
ラゲッジ関係では、3列目シートを倒したときにフラットフロアになるボードが用意されるなど、日本車が得意とするような細かい工夫があって、アメリカ車らしからぬ気配りに感心させられる。
絶対的なボディサイズの大きさは日本での使用のネックになりそうだが、いまどきの先進安全装備が充実しているから助けになってくれるだろう。車線逸脱防止、歩行者検知、衝突回避などと、一通り揃っているから、少なくとも5代目エクスプローラーの時代よりはっずっと安心して乗れるはずだ。
世はSUVブーム真っ只中、というかSUVこそが乗用車のメインストリームになりつつあるが、そんななかだからこそ個性が光るモデルがもてはやされる。エクスプローラーTimberlineは、ユニークさを求める向きにとって気になる存在であることは間違いないだろう。
石井 昌道(イシイ マサミチ) モータージャーナリスト・日本カー・オブ・ザ・イヤー選考委員
自動車専門誌の編集部員を経てモータージャーナリストへ。国産車、輸入車、それぞれをメインとする雑誌の編集に携わってきたため知識は幅広く、現在もジャンルを問わない執筆活動を展開。また、ワンメイク・レース等への参戦も豊富。ドライビング・テクニックとともに、クルマの楽しさを学んできた。最近ではエコドライブ教習会のインストラクターを務めるとともにTV番組に参加し、エコドライブの効果、テクニックを広めている。