脱ガソリンエンジン車到来前に一度は乗っておきたい
燦然と輝く21世紀の名車候補筆頭
文/石山 英次写真/古閑 章郎
昨年末から現在にかけての業界人との会話の中心は、「コロナ禍にもかかわらずアメ車業界は好調だよね」というもの。要するにクルマがかなり動いている=売れている。
「もう売るものなくて困っている」なんてことも何度か聞いたし、余談だが「売れ過ぎてクルマがなくなってきているからどんどん値上がりしている」というのは実際の話。
さて、そんな売れ行き好調のアメ車業界において、中心となるのがダッジチャレンジャーであり、昨年末から異常なくらいに引き合いがあるのがヘルキャットという。
聞けば、「チャレンジャーに乗られていた方々が、次に乗り換えるべきアメ車が見つからず、『ならば』と一気にヘルキャットに上り詰めていることが考えられます」という。
なるほど。すなわち、5.7Lモデルや6.4Lモデルに乗り、2年、3年、5年程度乗った後に、チャレンジャーがフルモデルチェンジでもしていれば当然乗り換えを検討することができたはずだが、現状それはないからどうするかと。
そのまま同じ車両に乗り続けるのも良いが、でも変化も欲しい。
「だったら、一気にヘルキャットに行くか!」という流れじゃないかという予想である。
これまた余談だが、チャレンジャーのフルモデルチェンジは一体どうなっているのか?
これまでにも散々期待を持たせつつも全く変化がない状況はこれまでと変わりなしだが、一応、現地報道では2023年モデルとしてフルモデルチェンジが予測されている。
それが事実であれば、来年2022年のどこかで発表されるという流れになるはずだが、FCAがステランティスに変わった! こともあるし、今後どういった経営方針のもと運営されるかにもよるだろうから、今後のチャレンジャーの動向にも若干の不安がつきまとう。
実際の話、仮に2030年にガソリンエンジン車の新車が販売できないというような世の流れが確定されてしまったら、これから出るであろう新型モデルたちにも少なからず影響を与えるだろうし、もしかしたらこのまま新型モデルが出ない可能性だってあるだろう(2023年に登場した場合、7年しか販売できないわけだから)。
先日、ジャガーが2025年までにすべての車両を電気自動車にすると宣言したばかりであるし、今後ジャガーに続く自動車会社が現れる可能性は非常に大きいはず。
だが、そんな中でのヘルキャット好調の流れは、実は「非常に理にかなっている」と思っている。なぜなら、ヘルキャットは他のチャレンジャーとは全く異なる存在であり、今後恐らく二度と現れないようなマシンであるから。
具体的に説明すると、ヘルキャットは707hpで登場し、現在797hpまで進化している。またその途中には840hpのデーモンを限定登場させているから、このヘルキャットエンジンの可能性を最大限活かせば、840hp程度までは普通に使用可能と推測できる。
で、仮に今後フルモデルチェンジされたチャレンジャーが登場した場合、一体何馬力で登場させるつもりなのか。900hpか。1,000hpか。
2030年、もしくは2035年にはガソリンエンジン車の販売ができなくなる可能性があるという中で、果たして900hpにも及ぶハイパワーなガソリンエンジン車をメーカーが登場させるだろうか。もちろん、限定生産というような商法を駆使すれば可能性はなくはないだろうが。
くわえて、フルモデルチェンジしたチャレンジャーが次に「どんな車体ベースを使用し、どんなデザインで登場するのだろうか」
FCAからステランティスとなった今、使用できるシャシーの選択肢は増えるかもしれないし、それが「マセラティであるかもしれなければ、アルファロメオかもしれない。
もしくはプジョーなんて選択肢も登場する可能性はほんのちょっとあるかもしれない」が、要するに現チャレンジャーとは大きく異なる可能性を秘めている。
もちろん、デザインも同様である。これまでチャレンジャーがフルモデルチェンジできなかった理由が、過去の名作の復刻デザインであるという理由であり、短命に終わった旧モデルであるから、現行復刻版のチャレンジャーにとっては、「次なるベースとなる旧モデルが存在しない」から、全く新しいデザインにならざるを得ず、それが市場で低評価に終わることを恐れている=フルモデルチェンジを避けていたと言われている。
要するに、チャレンジャーという名前の全く新しいデザインの新作が登場する可能性があり、さらにガソリンエンジン車の新車販売が難しくなっていく新時代を迎えるにつれ、新型は、現在販売されているチャレンジャーから、もしくはヘルキャットからどんどん離れていく可能性が高まっているのである。
だからこそ、現行型ヘルキャットを入手し堪能しておくなら「今のうち」であるし、それを認識している方々が実際に動いているからの「現在の売れ行き」ということに繋がっているはずである。
個人的にも、ヘルキャットは21世紀に輝く名車候補の筆頭であり、707hpを日常的に使用可能とした功績は非常に大きいと思っている。
それによって圧力をかけられた他メーカーは、コルベットZ06を出し、シェルビーGT500を出してきたわけで、こうしたパワーウォーズによってアメ車業界に技術革新をもたらしたことも多いに評価できる。
だからチャレンジャーファンとしては、5.7Lや6.4Lでも十分な性能であるとは思いつつも、もし余裕があるなら21世紀の名車である「ヘルキャット」を体験して欲しいと思うのである。
で、そんな中取材したF8グリーンのヘルキャットは見事なコンディションを有した1台だった。2018年型で1980キロ走行。あまりのキレイさに無理を言って下回りを見せてもらったが、当然ながらの状態の良さだった。
エンジン下回りやミッション、ドライブシャフト、デフといった各部にオイルの滲みもなく、下回りを打った形跡も全くない。
当然、そうした車両だからこそ、ボディ外装やインテリアにもヤレと言われそうな箇所はなく、まさしくBCDが主張するコンディション優先の販売車といった感じである。
「現状、2015、2016年あたりの個体ですと、アメリカでも結構な走行距離の個体が多く、余程の個体でない限りBCD車両としての扱いはないですね」
アメリカ本国でも当然人気車両であり、ハイパワーモデルであるということで、BCDの車両セレクトにおいては非常に気を使うモデルということであり、そうした中でのこのF8グリーンの低走行の個体は、アメリカでもかなりレアであったという。
また、なかなか珍しいブラックカラーのキャリパーが装着されており、内装もラグナレザーシートということで、玄人っぽさと非常に大人っぽい印象を受けたのである。
ということで、2015年時にメーカーが本気で製作した米国製最強のモンスターエンジン搭載車たるヘルキャットは、チャレンジャーファンならずとも一度は体感すべき存在だと思うし、脱ガソリンエンジン車時代到来前にこそ一度は乗っておきたいと断言できるのである。
ちなみに、あくまで個人的な嗜好だが、2005年から06年あたりのバイパーSRT10とヘルキャットの組み合わせが最高だと思うし、この2台の他にC7コルベット(最後のFRモデル)に乗り、C8コルベット(初のミッドシップ)にも乗ることができたら、21世紀のアメリカンレジェンドたちを全て網羅したと言っても過言ではないだろう。