デザインの美しさやキャブレターサウンドが奏でるビンテージ独特の世界
他の車両には見向きもしなくなってしまうほどのコンディション
文/石山 英次写真/古閑 章郎
BCDによる久々のビンテージ個体である。BCDは、厳選された直輸入車両や一度販売された直輸入車両をベースにした認定中古車を扱っているが、同時にビンテージと呼ばれる、まるで骨董品のようなヒストリックカーも扱っている。
ヒストリックカーとはいえ、現代の最新直輸入車両と同様コンディション優良の個体を販売するのがポリシー。またブランドやメジャーモデルを優先することなく、その歴史を感じさせる、デザインの原形をとどめた(ビンテージ品と呼ぶのに相応しいであろう)個体のみを取り扱っている。
過去には、コルベットやマスタング、チャージャー、そしてポンティアックといった数々の名車たちを取材してきたが、ここ数年は紹介することができなかった。
というのもこうしたビンテージ車両は、BCDの目利き担当による直接仕入れにより、現地にて車両のコンディションを直接チェックしたものを輸入しているから。ここ数年のコロナ禍によりそうした仕入れができない状態が続いていたのである。
だが、現地に赴くことが可能になり、ついに待望の仕入れが可能になった。その第一弾が66年型マスタングである。
ちなみに余談だが、筆者が過去取材した同じくビンテージのマスタングは、毎月第3日曜日に行なわれているモーニングクルーズによく参加されている。
過去に3台取材した経緯があるが、そのうちの2台の方とは直接お会いしているし、さらにそのうちの一人の方は毎月参加されていると話していたから、ビンテージとはいえかなりの稼働率である。
さて取材車両はターコイズブルーが美しい1966年型マスタング、2ドアハードトップである。搭載されるエンジンは289キュービックインチV8=4700ccのV8エンジンであり、フロア3速ATとの組み合わせになる。
この年代、つまり初代マスタングは1964年の途中で発表されたこともあってデビューイヤーは64・1/2(ロクヨンハーフ)と表記され、65年型では年間約55万9000台、66年型では約60万7000台という驚くべき生産台数をマークした大ヒットモデル。
ボディスタイルはオーソドックスなノッチバックタイプの2ドアハードトップとコンバーチブルでスタート。
65年型からは流麗なルーフラインを誇るファストバックが追加され、その基本的なデザインは66年型までそのまま継承されている。
ちなみに、このマスタングは世界中のクルマ達に多大なる影響を与えていた。例えば70年代のトヨタがセリカを作り、日産はシルビアを、ホンダはプレリュードに三菱はギャランGTOを作ったのである。
この289のV8エンジンは、当時200hp、最大トルク282lb-ftを発生させたスモールブロックの傑作と言われたフォード謹製V8エンジンであり、現車にはその当時の面影がエンジンルームにぎっしりと残されている。
またターコイズブルーのボディは想像以上にクリーンで、メッキパーツも輝き、インテリアの各部にも当時の面影とビンテージさながらの雰囲気がギッシリ詰まっている。
聞けば、この66年型マスタングにはフレームオフレストレーションが施されているということで、適度に使われ、いい塩梅にヤレた個体とは全く異なる雰囲気を漂わせていたのである。ドア下がりすら感じさせない状態の良さ、いまだに当時の雰囲気を色濃く残すデザイン、そしてすぐにでも走り出せるメカニズムコンディションetc。
というか、まるで新車とでも言いたくなるようなピカピカの状態である。くわえてインテリアが素晴らしい。往年のデザインと雰囲気や質感が如実に味わえるグッドコンディション。これぞ旧時代のマスタング。
だから、これを見ちゃうと他が見れなくなる恐れあり! それほどの個体である。
個人的に思うが、スピードに対する興味がなくなると旧車への興味が俄然湧く。デザインの美しさやキャブレターサウンドが奏でる独特の世界観の虜になってしまい、当然、現代車では物足りなくなってしまうのである。
いつの日か海沿いの国道をオールドマスタングでのんびり流したい、と思うのであれば、こういったビンテージ風情を感じさせる個体をチョイスし、十分に走れる仕様を目指すべきではないかと思う。このビンテージマスタングならば、それこそ購入した日からそうしたドライブが十分に可能だろう。
さらに贅沢を言えば、現代のマスタング GTの傍にこの66年型マスタングが並べられればもっと最高ではないか。
66年型ともなれば最新のマスタングほどの速さや快適性は全くない。が、所有する人々を楽しませる要素をたくさん持っているという点において、さすがは「マスタング」と言えるのである。