世界に誇れるV8NAエンジン+ミッドシップ
世界でも5本に指に入る屈指のマシン
文/石山 英次写真/古閑 章郎
世界の名だたるスポーツカー&スーパーカーはミッドシップが主流であり、純粋に運動性能のみを追求するならミッドシップが理想的であることは知っていた。その証拠にコルベットだって、過去ミッドシップの試作車を何台も作ってきた。
だが、コルベットはこれまで65年以上かけてFRを磨いてきた。そしてそれによってFR駆動で世界最速の称号を得た。が、同時に、「あくまでFR最速」といわれてしまうジレンマを抱えていた。
そして遂に動く。2020年C8 コルベットの登場だ。
ちなみに、ミッドシップにはエンジンやミッションといった重量物を車体中央付近に置くことでマスを車体中央付近に集中させ、また駆動輪(リアタイヤ)の荷重を確保することができるメリットがあり、そうすることで回りやすくなる=コーナリングが速くなる(要するにコマの原理を想像すればわかり易い)。
さらにリアに荷重がかかればブレーキング性能も向上し、当然リアが重ければ加速するためのトラクションも良くなる理屈だから、「スポーツ」と名のつく車両がこぞってミッドシップを採用するのも、こうした走りのメリットを得たいがためである。
ただし、メリットがあればデメリットもある。まずは二座になる(狭かったり、うるさかったり、背中が暑かったり)。さらにミッドシップの設計の煮詰め方、妥協次第によっては(重量物の置く位置や重心位置がダメダメな場合もある)、重量物がリアにあることが逆にリアヘビーを引き起こし、限界を低めてしまう等が起こる。
とはいえ、コルベット陣営も世界最速を名乗るには当然ながらミッドシップの土俵にいつか上がらないといけないことは理解していた。そして出来上がったミッドシップマシンC8は、上記のデメリットをことごとく払拭する最高峰のミッドシップマシンであった。
特に素晴らしいのが、6.2リッターV8NAエンジンのミッドシップであること。今や世界中のスーパースポーツでV8NAエンジンを搭載するマシンはコルベットのみ。
しかも伝統のOHVかつドライサンプだからDOHCよりもエンジン重心位置は一段と低くなり、コーナリングスピードも速くなる。メーカー公表値で言えば、旋回Gは1Gをはるかに超えるという。
また、フロントにエンジン等がない為工作の自由度が高くなり、右ハンドルが製作しやすい。実際、乗ってみるとわかるが、右ハンドルにおける支障は全くない。というか、逆に積極的に右ハンドルを選んだ方が日本では断然運転しやすいと思う。
くわえて3,000rpm以下の回転域では、いわゆる街中走行時には「えっ、これがコルベット」と思ってしまうほど静か。まるで高級サルーンにでも乗っているかのごとき静けさで淡々と走り、我慢ならずにそこからアクセルを踏み込めば爆発的加速とV8NAエンジンの快音に室内がさらされる。
同乗していたシボレーさいたま南のスタッフによれば、「この静かな領域を体感して毎日の足として使っておられるオーナーさんが実際におります。一方でC7にお乗りだったオーナー様には静か過ぎるといわれることが多いですね(笑)」
C8 コルベットは、恐ろしく快適でゴルフバッグが一式積めるトランクルームがある等利便性に優れている一方で、アクセルを踏み込むとまるで次元の違う速さを見せつける二面性が特徴とも言えるのである。
しかも、その速さの根源となるボディやそれらにまつわる工作精度が非常に高く、例えばレクサスやベンツBMWといった高級車から乗り換えたとしても不満を感じることはほとんどないだろう。
プラスしてインテリア等のデザイン、特にコックピット風情を漂わせる特有のドライバーズシート周りはオーナーの所有感をかなりのレベルで満足させてくれる。
ちなみに、V8NAエンジンの吹け上がりは半端なく鋭く、ちょっとしたワープ感が得られるレベル。しかもミッションとのつながりも良くタイムラグがほとんど感じられないから、レーシングマシンのような雰囲気を感じさせる。
コーナリングも、ステアリングをちょっと切るだけで反応し、切っただけ曲がる感じが如実に伝わってくる。が、それ以上のレベルになると同時に怖さも感じるから一般公道ではほぼほぼ体感できないレベルの速さであり、それ以前のレベルであっても首都高等では十分に楽しいだろうし速いはず。
というか、個人的には「ミッドシップ+V8NAエンジン」という今や世界でもレアな組み合わせが味わえるというだけでもめちゃくちゃ羨ましいマシンだと思う。しかもそれが1,400万円から買えるというのだから考えようによっては「安い」とも言える。
いや、正確には高額であることは間違いないが、例えば「V6ターボ+AWD」のNSXが2,000万円を遥かに超えたとか、フェラーリが軒並み2,500万円を超えているとか、フラット6を搭載するポルシェ ケイマン GTSが約1,200万円ということをベースに考えれば、これだけのスペックや精度を備えるC8の1,400万円は驚くほど安価と言っても過言ではないだろう。
ちなみに2023年モデルの販売価格は以下の通り。
◆2LT:1,400万円
◆3LT:1,600万円
◆コンバーチブル:1,750万円
2LTと3LTの違いはスペック的な性能差ではなく装備差であるから、そうした装備の差が必要なければ1,400万円でほぼほぼフルスペックのC8が買えてしまうのだから世界中の名だたるスーパースポーツカーと比較すれば相当にお買い得。
とはいえ、「安いから良い」ということでは全くなく、逆に世界に誇れるV8NAエンジンを持っているという点においては屈指の存在であり、逆に誇れる存在とも言えるのである。
再び渡辺氏によれば「シボレーさいたま南での販売実績においては6割が2LT、2割が3LT、残り2割がコンバーチブルというような割合です」
ここからは筆者の個人的見解であるが、買うなら迷うというのが本音。「2LTかコンバーチブルか?」
C8も、これまでのコルベット同様ルーフが取れる。だがその一方で昨年味わったコンバーチブルでの夜のドライブ。春の夜にコンバーチブルで都心を流す気持ち良さは格別だった。
コルベットであること、ミッドシップであること、そして自動開閉可能なハードトップを備えるセレブ感。そんな諸々を感じながらのゆるーいドライブにも十分に応えてくれるC8を体感すると、本気で迷ってしまう。
だから、純粋に運動性能の高い本気のミッドシップスポーツが欲しいと思うならC8 コルベットは世界でも5本の指に入る屈指のマシンであり、同時にちょっとしたセレブ感を味わいたければコンバーチブルも大いにお勧めである。
なお、FR最後のコルベットとなったC7であるが、C8との繋がりは名前以外ほとんど感じることなく、正直全くの別物。だから「FRコルベットが欲しい」と思うならC8には目もくれずさいたま南にある認定中古車のC7をチョイスすべきである。