パッケージモデル「GT/CS」をあえてMT車で
マスタングV8をMT車で味わう vol.1
文/石山 英次写真/古閑 章郎
ちょっと古いデータ(2018年集計)だから、ひょっとするともっと悪化している可能性はあるのだが、日本車のMT車比率は2%という。つまり、98%がAT車をチョイスしているということになり、それに比例して日本車からどんどんMT車がなくなっているらしい。
同時に輸入車のMT比率もどんどん下落し、たとえばフェラーリやランボルギーニといったスーパーカーにはMT車がなくなり、ポルシェに至っても911では一部の限定モデル等でのMT車しか存在しなくなった(ケイマンやボクスターにはMT車はまだあるが)。
もちろん、これらの背景にある要因のひとつはATの進化ということに尽きるだろう。2ペダル式のDGTが増えたことも重なり、あえてMT車をセレクトしなくても、それらしい『走り』が可能になったという理由である。
だが一方で、アメ車にはMT車が結構ある。かつてはバイパーに、コルベット C7、カマロ、マスタング、チャレンジャー、…etc。
たとえば、4ドアセダンのダッジ チャージャーには当然ないが、それ以外のスポーツ&スポーティモデルにはまだまだMT車が存在しているのだ(SNSでは米本国でのMT車オーナーをよく見かける)。
ちなみに、2020年以降発の新車からは世界中のスーパーカー&スポーツカー同様にアメ車からもMT車が廃止され始めている。たとえばC8 コルベット、シェルビー GT500等。今後、アメ車も同様にMT車が減っていく率は高まっていくのだろう。
ということで、今現在だとまだまだかなりの数が存在するアメ車のMT車なのだが、これがまた日本への直輸入となると一気に数が絞られる。
日本へ直輸入するには、当然「売れ線」ということになるはずだから、上記の2%という数字が示すように、ショップ側もATを持ち込むのが常であろう。ボディカラーだって「黒や白が多い」とよく言われるが、それだって「売れ線」を狙っているからこその白黒ボディカラーなのだから。
だが。そんな売れ線ばかりを狙うショップと一線を画すのが、BUBUのBCDである。たとえばボディカラーだって、白黒に限らず、赤、青、黄色、緑、オレンジ…etcが豊富に展示されているし、スポーティモデルのMT車だって、当然のように在庫されている。
そこはまるで本国ディーラーのような品揃えでもあり、こういったスポーティカーのMT車を望む方々には最高のディーラーと言える存在なのである。
ちなみに余談だが、同社はミッドシップコルベットたるC8もすでに購入済みであり、ボディカラーはブルーということだから、入荷したら即在に取材して紹介するつもりである。
さて、そんな減少傾向にあるMT車のマスタングを2台紹介する。一台目となるのが2019年型のV8GTのカリフォルニアパッケージ。
このカリフォルニアパッケージ車は、じつは1968年にデビューしている。そしてその後2007年からリバイバル登場し、その後は定期的に登場するスペシャルモデルとして人気を博している。
特徴は、ブラックにペイントされたグリル、ボディサイドライン、ブラックペイントされた5本スポークホイール、さらにフロントエアスプリッターを装備する特別車両。「GT/CS」と称されるそれは、パフォーマンスカーでありながらも、どこか気品を感じさせるため、多くのファンを持つ。
かつては1968年、そして2007から2009年、2011年から2014年、2016年から2017年と続いたカリフォルニアスペシャルの歴史であり、フォードジャパンが存在していたときにも、限定車として日本導入が行われた経緯がある。
そんなGT/CSの2019年モデル。ベースとなるマスタングGTのV8エンジンは、2018年モデルから460hp、最大トルク420lb-ftに改良され、さらに6速MTはレブマッチ付きのマニュアルシフトにグレードアップしている。
ボディも、パっと見はマスタングそのものだが、ちょっと離れて見れば、上記のパーツが醸し出す違いが、「あれ、普通のマスタングとはちょっと違うかも」と、じんわりとだが、人に違いを気づかせるのである。
これまでに数度、現行マスタングのV8MT車に試乗してきた経験を持つが、陳腐な言い方だが、やはり「V8をMTで操る面白さ」がすべてだろう。今や速さで言っても同じマスタング同士で直線加速競争すればATの方が速い場合があるに違いない。
だが、MT車は速い遅いに関係なく、ドライバーの気持ちを高揚させる刺激に満ち溢れている。搭載されるV8だってMT車の方がなぜかサウンドが大きく響き、ダイレクトに感じ、それらをシフトとクラッチを素早く動かし見事シンクロさせたときの気持ち良さといったら、街に溢れるエンターテインメントを遥かに上回っていると思う。
この個体は、2019年車の約2000キロ走行車ということで、程度云々の話をするようなヤレは皆無であり、もしかしたら、エンジンやミッションにはまだ若干慣らしをする必要があるかもしれない、そのくらいのレベル。
MT車の現行マスタングは、他の限定車やシェルビー系以外だと数が大分限られる存在だけに、「あえてMT車」がお望みの場合には、候補の一台として是非実車を確認して欲しい。