ハードなマスタングを欲するなら一気にGT350へ
マスタングV8をMT車で味わう vol.2
文/石山 英次写真/古閑 章郎
2018年型のシェルビー GT350。真っ赤なボディが似合う。この車両は約6800キロの走行距離だが、これまたほとんど使用感が感じられないほどのコンディションである。
シェルビー GT350は、2019年までは現行マスタングのトップグレードに君臨していた。2020年からは760hpのシェルビー GT500にその座を譲るが、それでも350の希少性はまったく劣らないと思っている。
たとえば、前エントリーで紹介したマスタング V8GT カリフォルニアパッケージのMT車も圧倒的に楽しいし、シフトフィールもまるでマツダロードスターのようなショートストロークで小気味よいしで、MT車の醍醐味が十分に味わえる。
だが。このGT350だと、そこにさらなるフィールの良さと速さが伴い、さらにレーシーな雰囲気も充満しているから、あくまで個人的な意見だが、まるでスーパーカーのような、ちょっとした官能性のようなものまで味わえる気がしている。
なので、V8GTとGT350との閒には、古い話で恐縮だが、ノーマルNSXとNSXタイプRのような違いがあり、ハードなマシンを欲するなら一気にGT350に行ってしまった方がいいと思う。
しかも、「もうじきGT350は生産終了」との話もあり、それは生産の手間とコストとの兼ね合いということだから、逆にいえばそれだけ手の込んだマシン、とも言うことできるはずである。
余談だが、たとえば7リッターV8を搭載したC6コルベット Z06やシボレーカマロ Z28(2014-2015)等は、今や本国の中古車市場では取り合いとなっており、日本でもこの2台の中古車はなかなかの高価格である。といってもシボレーカマロ Z28は、そもそも日本への流入量自体が少ないために、ほとんどお目にかかれないが。
で、何が言いたいかといえば、上記2台のマシンは、その時代のみのスペシャルなエンジンを搭載していることが人気の秘密である。であるならば、このGT350も当然ながらそういった人気車になる条件を揃えていると言っていい。
くわえて、ボディの作りもベースからして違う。フロントセクションの一部にカーボンパーツを使用し、軽量化と高剛性を実現している。なので、その強さと軽さはステアリングの反応に顕著であり、この部分だけもノーマルのマスタングGTとは雲泥の差である。
しかもMT車のシフトストロークは節度感がありながらも操作に要する力は軽くスムーズであり、フォード謹製5.2リッターV8NAエンジンの絶品のレスポンスと吹け上がりを味わうことができる。
このエンジン、レブリミットが8250rpmとアメ車としては異例の高回転型ユニット。既存のクランクシャフトをフェラーリ等の高回転型ユニット同様の置き位置にわざわざ変更して「回せるV8」を作り上げた。
2020年に登場するシェルビー GT500は、GT350のエンジンをベースにするが、このクランクシャフトは採用せず、もとのV8の置き位置に戻して使用している。
ということもあって、GT350に搭載される5.2リッターV8NAエンジンは526hp、最大トルク429lb-ftを発生させ、スーパーカーに匹敵する官能性能をも備えているのである。
半年くらい前に乗った10速ATの現行マスタング エコブーストは、それはそれで絶品だった。10速ATが洗練されており、「他に選択肢はないな」と確実に思わせるだけの存在だった。
だが、V8エンジン搭載車となると、どうしても「MTがいい」と思ってしまう自分がいる。
それは何故か。「大排気量V8NAエンジン」をMTで乗れる車両が世界中を見渡しても数えるほどしかないからである。
自分は、正直、アメ車好きというよりは、自動車好きである。で、そんな人間がアメ車を見た場合の最大の特徴が、大排気量V8だと思っている。
だからそんな希少価値の高いエンジンをMTで乗れるなら絶対に乗るべきだ、と常々思っているわけで。しかも、実際に乗ってみると、アメリカンV8は、BMWの直6ターボやAMGのV8エンジンにも劣らないほどの魅力を備えている。
しかも、シェルビー GT350なら、そのV8を手間暇かけ、さらに一段と磨き上げているわけだから希少価値は高いし、その性能や作り込みは、当時のGM製7リッターV8に勝るとも劣らない出来栄えと言っていいのである。
ということで、後世に渡って名を残すであろうシェルビー GT350は、フォードが本気で作った珠玉のV8NAエンジンを搭載しており、マスタングではあるが、別格な存在として評価されるべき存在なのである。