「今あえてコルベットC7」とBCDが推す理由とは?
FRコルベット最上モデルとしてのグランスポーツ
文/石山 英次写真/古閑 章郎
例えば「打倒ドイツ車」という目標を掲げたとする。するとほとんどのメーカー(日本を含む)がニュルブルクリンクといわれる世界一の難所サーキットにクルマを持込み、テストを繰り返す(一周するのに8分近くかかる)。するとヤワなボディは一発でヒビ割れを起こし、追従性の低いサスペンションはコントロールを失い、効かないブレーキだと一周すら走ることがままならない。
すなわち、それこそが10年以上前のアメ車だった(笑)
だが、そこで鍛えて鍛えて鍛えまくって、補強して補強して補強しまくれば、そこそこ素早く走れるようになる。ニュルとは、当時のアメ車にとっての大リーグ養成ギブスのようなもんだったに違いない。
ちなみに、この頃のドイツ車といえば、ニュルを最終テストの調整の場として使っていた。アメ車は必死の形相でラップタイムを刻んでいたが、ドイツ車は鼻歌交じりの余裕の走りで、確認作業を行っていたのである。
それから数年経ってニュルを走るアメ車はかなりの数になった。まるで「ドイツ車になりたくて…」のように。
だからボディは岩のように硬くなり、サスペンション制御にも長けて、コントロール性高く、まさにドイツ車のごとき走りが可能になった。くわえてニュルのラップタイムでもマジ走りでドイツ車を圧倒するようにもなったのである。
で、コルベット。仮想敵をポルシェとし、60年という長き歴史の集大成としてC7という最強スポーツカーを作り出した。そしてまた再びニュルを走り切りセットアップを繰り返したのである。だが、素晴らしいのは、仮想敵を置きつつもそれを模倣するだけにとどまらず、自らの理想を貫き通していることだった。
たとえばFRのフレームボディにFRPパネルを貼り付けるという初代以来のボディ構造は、C7でも継承されている。LT1V8エンジンは新設計だが、排気量が6.2リッターでOHVのままだし、サスペンションも、あいかわらずコイルではなくて横置きリーフスプリングを使っている(いずれもが自動車技術としては過去の産物とされるものだ)。
すなわち、単なるドイツ車コピーに成り下がらず、それらが一体となり、アメ車としてのコルベット、コルベットとしての「味」を間違いなく作りだしていたのである。
ということでコルベット C7とは、いまだスポーツカーとしての基本理念が高く、運動機械としての基本設計に正しく、そして個性強く存在感にたくましいスポーツカーである。そしてそれはアメリカ代表という枠を超え、世界レベルで語れるスポーツカーという高みに登っている…。
だが。その最高の存在たる『コルベット』という存在の中にも、「最新」が常に存在するということを忘れてはならない。すなわちそれは60年以上の積み重ねの集大成=「最新のコルベット」=「コルベット C8」に他ならない。
ところが。2020年に登場したコルベット C8は、FRを改めミッドシップに生まれ変わった。われわれ編集者が見た目の違いを「フロントロングノーズがリアロングテールに生まれ変わった」などと安易に記すが、実際に乗れば、FRからMRへの駆動変更は、そんは発言では済まされないほどの違いが如実である。
しかも、50年以上もの歴史を持つスポーツカーにおいて、こういった基本構成のフルモデルチェンジなどは見たことがない。ポルシェにおいてもRRのほかFRも存在したが、あくまで別モデルとして登場し、廃止されている。RRのポルシェがFRに変更されるなんてことはあり得ないし、あってはならないことだ。
ところが、コルベットにはそれが起きた。もちろん「FR以上の速さ」を求めるために、という前提があってのことだが、60年以上の歴史を持つスポーツカーがこんなにも簡単に過去を捨てるなんて…。
いずれにしてもFRとMRとでは大違い。だから個人的には、「C8はコルベットという名の別モデル」という認識をしているし、やはりこれまでの歴史の集大成たるC7こそが「最新」ではないが「最上」のFRコルベットとして評価されるべき、という風に考えているのである。
だからBCDがコルベット C7を現段階においても積極的に取り扱っていることに納得するのである。FR最後のコルベット=60年以上の歴史を持つ最上のコルベットだから。
で、そんななかで取材したC7が2019年型グランスポーツ。660キロ走行ということだから、「ほぼ新車」と言っても通じてしまうのではないか、と思えるような個体だった。
しかもグランスポーツだけに、理想のFRコルベットとしてまさしく最上モデルではないかと考える。
C7には、ZR1、Z06、グランスポーツ、ノーマルクーペと大きく分けて4つのラインナップが存在している。その中で650hpマシンのZ06の足やオーバーフェンダーを含めたボディエフェクトを装着してはいるが、エンジンはノーマルクーペに搭載させる標準エンジン、というのが大雑把に言うところのグランスポーツだ。
すなわち、650hpに耐えうるような強固な車体本体各部にノーマルクーペの6.2リッターV8エンジンの組み合わせ、ということだから、すべてにおいてオーバークオリティ的な余裕が生まれる。
ノーマルのV8とはいえ460hpはあるのだからそれでも十分に速いし、なによりリアの踏ん張り&安定性が格段に高いから、安心して楽しめる。ちなみにグランスポーツのメーカー公式コーナリングGは1.2Gである。これって、コルベット中でも最大Gであり、このコーナリングGだけで見ればポルシェやフェラーリすら越えているのだ。
しかも何度も言うが、こうしたオーバークオリティ的な余裕があるからこそ、各部のヘタリ断然少ない。しつこいが対650hpモデル用に460hpのV8搭載なのだから、しっかりした定期点検を怠らなければ、余裕で10年10万キロはクリアできるだろう。
また中古車となった場合にも、コルベットの他モデルよりセレクトする個体の見極めや状態把握がしやすく、また買う側も、美 味しい状態が多く残った個体をセレクトすることが可能な場合が多いから筆者的にも高年式C7=グランスポーツという認識となっている。
個人的に、過去これまで何度かグランスポーツに試乗しているが、とにかく素晴らしい印象を持っている。くわえてハイパワースポーツの圧倒的加速感と、ライトウエイトスポーツカーのようなハンドリングレスポンスが同時に得られるところに、FRコルベット最上モデルとしての執念を感じるし、歴代コルベットから続くFR究極モデルとしてのプライドも感じるのである。
車体の雰囲気や室内空間にライトなスーパーカー的雰囲気を感じさせる部分もあるから、華やかな日常使い車、もしくはデートの足としても余裕で使いこなすことが可能な存在である。