FRコルベットのハイパフォーマンス版
車重1598kgに650phという恐るべきパワー
文/石山 英次写真/古閑 章郎
Z06とは、2015年に登場した当時のFRコルベット最強モデル。ノーマルC7コルベット比で一段とパワフルになり、シャシー剛性はアップし、それに伴いボディワークも改良されている。
具体的にはフロントフェンダーが56ミリ、リアが80ミリワイドになり、前後サイドにエアロが装備され、ブレーキはブレンボ、タイヤはミシュラン・パイロットスポーツの専用品が装備される。車重も1500キロ台と、アメ車としては異例の軽量ボディだ。
搭載されるエンジンは、6.2リッターV8OHVにスーパーチャージャーが装着されたLT4。専用パーツで製作された珠玉の逸品である。
650hp、最大トルク650lb-ftを発生させるこのエンジンは、フェラーリNAエンジンのような高回転域まで一気に突き抜ける快感はないが、低速から巻き起こる爆発的パワー&レスポンスにおいては圧倒的優位であり、OHVならではの低重心+ドライサンプ採用により、サーキット走行でも鬼のように速い。
このLT4にはトランスアクスルレイアウトで組み合わせられるミッションが2種類あり、7速MTおよび2016年モデルからは8速ATも選択可能となっている。
余談だが、GMが自社開発したこの8速ATは、アルミやマグネシウムを多用する軽量コンパクトな設計ながら100kg-mまでのトルクに対応する当時最新のミッションであり、トラックモードにおいてはポルシェ911のミッション・PDKを上回る素早い変速を可能にしていた。いわゆるデュアルクラッチ仕様ではなく、トルコンATでだ。
それにより、Z06の0-60マイル加速はなんと2.95秒。7速MTでも3.2秒というからATとは言えまったく侮れない、ケタ外れな存在なのである。
Z06に関しては、これまで散々語り尽くしてきたのでいまさら語るべきものはほとんどないが、あえて言うなら車重1598kgに650hpのFR車というスペックだけで超バケモノ・マシン的な想像は容易につく。707hpあるチャレンジャー ヘルキャットの車重は2トンを余裕で越えているのだ。
ちなみに、Z06デビュー当時にアメリカ本国ではこの両車のゼロヨン競争動画が公開され、ヘルキャットが僅差で勝利したと聞いた方も多いはず。だから「やっぱりヘルキャットだな」と思っているに違いないが、実際にはどうか?
静止状態からの爆発的加速力はパワーこそ命なのでヘルキャットが707hpを発生させている以上、ゼロヨン加速においては圧倒的に優勢だろう。
だがステージを変え、例えばクローズドコースといった曲がりくねった道でラップを重ねれば、恐らくヘルキャットは、Z06についていくことはできない。車重2000kgを越えるヘルキャットが1598kgのZ06の周回についていくのは物理的に無理なのだ(最初の1周くらいはついていくだろうが…)。
ということで、この2台を比較することには意味がなく、アメリカンマッスル代表のヘルキャット、アメリカンスポーツ代表のZ06として決して交わることのない「両雄」として評価されるべき存在なのだろう。
なお、ベースとなるC7自体も能力的にはかなりのスーパーである。乗ればシャシーの頑強さに驚き、重心が低くFR車にしてはトラクションが良く、シャシー剛性が高いからフロントの操舵感がリニアで回頭性が良く、回頭してからのグリップも高いから安心感がある。
またサスペンションアームが長くてストロークがあり、剛性が高いからこそタイヤの接地面の変化が少なくかなりフラットな状態でコーナリング性能が楽しめる、驚くべきFR車である。
そんなC7に約170hpプラスして足回り等のバランスを調整したZ06なのだから、悪いはずがない。しかもデビュー当時から日本では話題の1台であったが、当時1500万超の価格帯もあって個体数があまり流通していない。=それは今であっても変わらず「貴重」な存在ということだ。
最後に、これだけのスーパースポーツであるがゆえにメンテナンス等の整備にも多少なりとも気を使わなくてはならないだろうが、BCDでは最新設備を持って対応可能であり、かつBUBU系列にはGM系のディーラーがあるだけに、情報共有によるピンポイントな整備も当然可能である。
かつては660hpのシェルビーGT500や707hpのチャレンジャー ヘルキャットといったスーパースポーツを日本で一番売っていた実績もあるだけに、精緻な極みといえるZ06においても当然ながら完璧な状態を維持させてくれるはずである。