「まるでレーシングカー」な最高峰カマロ
史上随一のハイパフォーマンスモデル
文/石山 英次写真/古閑 章郎
近年のアメ車はこぞってニュルを走っている(ニュルとは世界一難所コースのニュルブルクリンクサーキット)。とくにGM車は熱心だ。ダッジ系は直線重視車両が多いためか、バイパー以外はあまり聞かないが、カマロやコルベットはこぞってニュルを走り鍛え上げている(国産ではGT-R、NSX、またC8コルベットもそうだ)。
だから乗るとひと味違う。ステアリングの感触がフォードやダッジ系とは全く違う。足回りのしなやかさや強靭さも全く異なる。それは日本の一般道を走っただけでもわかる。車両全体から伝わる骨太さが完全に別次元である。
実際、カマロ ZL1の10速AT車がニュルを走ったラップタイムが7分29秒60であった。これは、旧ZL1よりも11秒67タイムが向上しており、たとえば997世代のポルシェ 911GT2やターボS、GT3 RSよりも速いラップタイムである。そう、シボレーカマロ ZL1とは、それほどの車両である。
で、実際に日本にて乗ってみての感想は、707hpチャレンジャー ヘルキャットよりも確実に速い(と思う)。仮にスタートダッシュで負けたとしても第一コーナーで刺せる。その後もコーナーのたびにチャレを突き放すであろう。そのくらいに速いし、シッカリしている。
ボディの剛性は、アメ車随一だ。これは体感でコルベット以上だと思う。ステアリングの剛性もハンパない。今や電動パワステだからその重さを感じることはほとんどないが、ステアリングから感じる剛性感はこれまでに感じたことのないものだ。
各部のスエードタッチのインパネが硬派なレーシングマシンの様相を与えてくれ、低い着座位置や、また抜群のホールドを見せるバケットシートを伴って、まさしくレーシングカー的な雰囲気を与えてくれるから、硬派な「マシン」が好みならその要望に十分に応えてくれるだろう。
なお、この型のカマロ ZL1は2017年にデビューし、ボディは全長、全幅、全高、ホイールベースを短縮することで旧型比で90kg以上の軽量化を実現している。それに伴い重量は1790kgということだから、この手のマシンとしては抜群に軽い。
同クラスのメルセデス AMGやBMW Mシリーズなどはプラス100kg程度は重いから、また日産 GT-Rはそれ以上重いから、それだけでもこの車両の気合いの入り方がわかるというものだ。
搭載されるエンジンはZ06と同様の6.2リッターV8スーパーチャージャーLT4ユニットで650hp、最大トルク650lb-ftを発生させるから、それだけでも十分に速いのだが、1790kgという車重が絡めば、冒頭の車重2トンを超えるヘルキャットでも相手にはならない。
一方足回りは、新たに調整された新マグネティックライドサスペンションにパフォーマンストラクションコントロール、電子制御ディファレンシャル、さらにランチコントロールにドライバーセレクタモード等、最新テクノロジーを駆使した最高レベルの状態がもたらされている。
くわえて、フロント285 / 30ZR20、リア305 / 30ZR20インチ鍛造ホイールに、グッドイヤーイーグルF1スーパーカータイヤ、さらにブレンボの6ピストンモノブロックブレーキとツーピースローターが装備されている。
筆者は、年間を通してかなりの数のアメ車を取材しているが、一般道を走っただけでもこれだけの違いを見せてくれる車両はほんとに珍しい。恐らくサーキットに行けばもっと別の顔を見せてくれるのだろうが、そこを走らずともその姿は容易に想像がつく。
どんなに荒れた路面でも受け止め、手足のように4輪を操ることを許し、そして豪快にコースを立ち回るに違いない。ストリートにおける強さと、それでいて扱いやすいという点は、きっとそんなところに繋がるはずだ。
あくまで感覚的な印象だが、このカマロならコルベットよりも速いのではないか。そんな気がするくらいのインパクトを与えてくれる。
そしていざ走り出せば猛烈に速い。まさしく鍛え上げられたアスリートのごとき瞬発力&切れ味。しかも硬い。硬いとはボディのことであり、驚くべき剛性感である。また新たに組み合わされた10速ATが想像以上に良く、小刻みに変速を繰り返し、それでいてその変速をあまり感じさせずに650hpを制御する。
同じエンジンを搭載するZ06には8速ATが組み合わされているが、それよりも緻密な制御がこの10速ATの真骨頂であり、Z06が2016年に登場していることを鑑みれば、2018年に登場したZL1の方が2年分の進化が積まれている。それがまさしく10速ATと言っても過言ではないのである。
ちなみに同じく取材したコルベット Z06は、もっと低く座り、もっとタイトな空間で、まるでスーパーカーのような印象を与えてくれるが、カマロ ZL1は低い着座位置とはいえ、箱型ボディらしく敷居が低いというか扱い安いというか、若干気軽さがあるのもいい(乗り降りに関しても)。やはり地べたスレスレに座るコルベットと箱型ボディのマッスルカーとでは一線を画す部分が明確にあるということなのだろう。
だが、その箱型で「これほどに速い」という部分にこそZL1の魅力が詰まっていると個人的には思っているし、そんな箱型ボディで、たとえばスーパーカーのケツを追い回せるとしたら…。めちゃくちゃ快感だろうと思うのである。