死ぬまでに一度くらいは「名車」に乗ってみたい
市販車最高峰レベルのマシンをBCDで
文/石山 英次写真/古閑 章郎
世界に衝撃を与えた707hpマシンのチャレンジャー ヘルキャットが登場したのは2015年。当時箱型ボディの最強モデルとして世界中から引っ張りだこだったヘルキャットは、その後のマッスルカーに多大なる影響を与えた。
たとえばシェルビー GT500。2014年まで最強だった662hpマシンのフォード シェルビーGT500が、マスタングのフルモデルチェンジがあった2015年から2020年まで登場しなかった(できなかった)理由は、ヘルキャットの707hpをすぐに超えることができなかったから。
しかも開発途中にヘルキャット自身が先にモデルチェンジし、707hpから717hpへ、さらに797hpのレッドアイを登場させたことによってトドメを刺されてしまったから。余談だが、遂に登場するシェルビー GT500は760hpでデビューした。
そんなヘルキャットだが、デビュー当時は誰もが「一代きりの特別モデル」と思いきや、なんと通常ラインナップに加えられ、毎年のようにリファインされながら今もなお普通に新車が販売されている。
本国メーカー保証の利く707hp。街のチューニング屋が仕上げた700hpではない、免許書取立ての10代から80歳の爺さんまでもが普通に買える700hpマシンである。
余談だが、昨年、ヘルキャットに搭載されている「エンジンのみ」の販売が行われたが、あっという間の soldout だった!
すなわち、カリカリにチューンしたエンジンを旧車に搭載するよりも、この新品エンジンを積んだほうが手っ取り早く700hpが手に入り、しかもメーカー保証がつくのだから使用しない方が損だろうと。現地では「チューナー殺し」とも言われていたのである。
さて、筆者は仕事柄いろいろなアメ車を見ているから年々目が肥える。しかもそれなりの知識や経験も増えるから、見た感じで良否も分かる(気がする)。だから自分でチャレンジャーを買うなら間違いなく6.4リッターNAV8エンジンを搭載するSRT392。もちろんヘルキャットが出た後でも、であった。
707hpの凄さは言わずもがなだが、「そこまではいらない」というのが本音だし、392のNAエンジンをMTでドライブする方が面白いし、価値ある行為だと思っていたのである。だからSRT392のシェイカーが理想の一台だと。
だがつい最近、翻意した。とあるショップでチューニングカーを取材したあとのことである。707hpのヘルキャットが900hp超え。それもちょちょいのちょいとパーツを交換し吸排気系とコンピューターのチューンのみで。
聞けば、「そのくらいベースエンジンに余力がある」。くわえて「ベース車の熱対策も凄い」と。「正直、いじればデーモンなんか目じゃないし壊れないし、買うなら絶対ヘルキャットですね」と言われたわけである。
しかも、同乗させてもらったが、死ぬほど速かった(笑)。いまさら速さにはまったく興味はないが、でも、この速さを生み出せるエンジンは本気で欲しい!
さらに言われたのが、「8速ATだとより速さを生かせます。MTじゃ、この息継ぎなしの俊敏な変速は無理でしょう」とも。
個人的に思っていた理想の一台は392だったが、それは間違いかもしれない…。歴史に残るのは間違いなくヘルキャットだし、死ぬまでに一度くらいはアメ車の名車に乗っていたい。何ならエンジンだけでも欲しい。そのくらい価値のあるマシンであろうと。
このアメリカ史上最強パフォーマンスを持つ量産エンジンはあえて新設計され、707hpのための強化と熱対策が念入りに行われている。だからこその本国5年、10万マイルのメーカー保証だったのだ。
筆者はヘルキャットのデビュー当時からかなりの数を取材しているが、実際に日本を走っているヘルキャットのトラブル事例はほとんど聞かないし、「搭載エンジンの熱対策はかなりのもの」ということで、今や日本の各ショップから絶賛されまくり。メーカーが本気で製作した米国最強のモンスターエンジンに惚れ惚れするという意見が圧倒的なのである。
ということで、2016年型のヘルキャットを取材。走行距離が1万9000キロ弱。もともとBCDが直輸入し販売した後に、再び下取りとしてBCDに戻ってきた車両という。価格は738万円。
2015年当時、日本に直輸入された車両は軒並み1,000万円超えが普通だった。なかには1,300万円なんて販売車両もあったくらいである。それが今や700万円台。もちろん超高額車両だが、5年前の熱狂ぶりを知る者からすれば、激安の感は否めない。
さらに、実車を見て驚いた。さすがはBCD。ボディ&インテリアのコンディションが上々であり、「まだまだこのレベルの車両が入手可能なんだな」ということを知って嬉しくなったし、たとえば2019年あたりのR/T スキャットパックワイドボディ(6.4リッターV8搭載車)の程度良好車および新車あたりの価格帯とかぶる、もしくは若干のエクストラでヘルキャットを購入することができるわけだから、後世に確実に残る名車を入手する機会が増えるというものである。
ちなみに、買うならヘルキャットの初期モデル、2015年から2017年あたりを買いたいと思っている理由、もしくはみなさんにオススメする理由は、パワステ。これら年代の初期モデルにはヘルキャットのみ油圧パワステが使用されていた(他のチャレンジャーはみな電動に変更された後にもあえての電動)から。
何度も試乗しているが、パワステの違いは結構大きいと思っている。もちろん電動に乗ってしまえばそれはそれで慣れてしまうのだが、選べるならあえて油圧を選ぶし、その方が操舵の感覚が自然だし乗っていてシックリくる(後にヘルキャットも電動になった)。
くわえて、ATのスムーズさと秘めたる707hpの安心感みたいなものが備わっていて、近所のコンビニから一気に200キロ巡航までをこなすその余裕たっぷりのそぶりが最高に素敵だと思うのである。
ヘルキャット、同じチャレンジャーの姿をしてはいるが、R/TやSRT392とはエンジンがまったくの別物であり、同時に、アメ車以外のパフォーマンスカーと比較しても作り、性能、あらゆる面において優っており、歴史に名を残す最強の1台と宣言していいだろう。